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Beauty Source キレイの魔法

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エリザベート1848『ローレライ』

エリザベート 1848
『ローレライ』

「シシー、さあ行くよ。」
お父様がチターを持ち、私を誘う。
すっかり村人になりきって。
私も丈の短いスカートに着替えて村娘に。
だってまあ表向きだけは、公爵親娘とわからないようにしなくちゃいけないんだもの。

「ローレライにいいバイオリン弾きがきているらしいんだ。」
粗末な馬車で向かう道中、お父様は嬉しそうに言った。
村で唯一の酒場には、あちこちの国から流れ者がやってくる。
チターとヴァイオリンを上手に演奏なさるお父様は、
そんな芸人たちが大好きで、お城にも何人も招いて滞在させては、
「マクシミリアン・サーカス団」なんて名付けて愉しんでいらっしゃる。
音楽のほかにも、アクロバットやめくらまし、面白い動物たちやちょっとした演劇も。
お母様に押付けられたルイーズ夫人の退屈な「貴婦人になるための授業」を抜け出して、
お父様と一緒に彼らと戯れるのは、大好き。

ローレライの入口に着くと、お父様はチターを奏でながら、吟遊詩人のように中に入ってゆく。
お酒で真っ赤な顔をした村人たちが拍手喝采で迎えてくれて、私もいい気持ち。
演奏が終わると、お父様の帽子を持って皆からチップをもらいに回ったりして。
自分でお金を稼ぐってなんて面白いのかしら。

目当てのヴァイオリン弾きは、酒場のすみに小さくなって腰掛けていた。
「北欧からやってきたらしくてね。普段はああして、いるかいないんだか、静かな奴で。
さあ、グスタフ、一曲やっとくれ。この方のご所望だ。」
酒場の主人が促すと、ヴァイオリン弾きは立ち上がって目礼した。
陽気に騒いでいた村人が静かになり、彼の曲を待っている。
流れてきたのは、綺麗で、泣きたくなるようなメロディ。
周りの皆も、お酒じゃなくって、涙で顔を赤く腫らしている。
お父様も私も感激屋だから、一緒になって泣いて、演奏の終わった彼のもとに駆けつけた。
「君、ぜひ僕の家に来てくれないか?」
「グスタフ、光栄なことだぞ。公爵のお城に招かれるのは。」
酒場の主人が満面の笑みで彼の肩をたたく。

「喜んで参ります。ただ、もしよろしかったら私の友人も御一緒させていただきたいのですが。」
「友人ってあの仮面男か。公爵、そいつはなかなかいい歌い手ですぜ。
昨日、ここに来たばかりでお知らせしてなかったんですがね、夕べ、グスタフの演奏が始まったら
突然歌い始めて、それが上手いの何の。
うちの女房や近所の奥方連中なんか、裏で聞いていたのが飛んできて、いまだに皆、ぼーっとしてまさあ。
ああいうのを、天使の、いや悪魔の声とでもいうんでしょうかね。
チップも見たこともないくらい山と集まって全部、酒代、宿代にしてくれっていうんだ。
グスタフとは気があったみたいなんで、一緒の部屋にいるんですがね。」
「彼は長旅で今夜は休んでいるのですが、公爵様のお城で疲れを癒せば・・・。」
もちろん、お父様はすぐに二人を招いた。
私もとっても愉しみ。お父様より上手に歌う人なんているのかしら?
もし気に入ったら、今夜のチップ、少し分けてあげてもいいわ。


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